2010年5月16日日曜日

Designとデザイン

最近、いろいろなデザイナーやエンジニアと仕事をしていて思ったこと。日本語のデザインと英語のDesignは違う言葉であり、この言葉の違いによって偏った情報が広がっているように見受けられる。

日本で、「世界を変えるデザイン」という言葉を耳にする。間違いなくこの本が影響を与えている。

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある
(2009/10/20)
シンシア スミス

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もともと、この本のオリジナルは「Design for the other 90%」というCopper Hewit National Design Museumで行われた同名の展示会のパンフレットのようなものである。この本の中に「デザインには世界を変える力がある。」というlona de Jongh氏の言葉があり、デザインで途上国で生活している人々の生活を劇的に改善することが可能であると力説している。事実、本の中には途上国向けに開発されたプロダクトの数々は紹介されており、機能と見た目を兼ね備えたものばかりである。

一方で、このデザインがプロダクトの普及に悪い影響を与えているという話もよく耳にする。洗練されたデザインをもつプロダクトには、計算された曲線美や調和された色が選別され、開発プロセスにも大きな影響を及ぼす。この行為は一般的に生産コストを高くし、現地生産のハードルを高くすることにもなる。現にKopernikで扱われているような製品は、現地で生産されてはいない。


以前、学部生のときにあるデザイナーと仕事をする機会があった。PINOというロボットである。当時ロボットにデザインをするという話はあまりなかったので、ロボットの性能はともかく、非常に話題になったことを覚えている。PINOのデザイナーは松井龍哉さんという方で、現在flower roboticsというデザイン事務所を運営している。あまり当時のこまかい話を覚えていないけれども「デザインとは花のようなものである。あってもなくても命にはあまり影響はないけれども、存在自体に人の心を豊かにする力がある。」というように、デザインの意義について話をしていただいたのを覚えている。会社の名前がflower roboticsとなったのもそこからきているとか。その後,山中俊治さんのようなデザイナーの方とも仕事をする機会があったが、自分のなかでどうもしっくり来なかったのが、技術者とデザイナーの間にくっきりとひかれた境界線だった。メディアラボに留学を決めたもの、ラボの説明会に参加したときに「アーティスト、サイエンティスト、エンジニア、デザイナーなど、状況によってすべてのhatをかぶる必要がある」という言葉を聞き、メディアラボでの研究を決めた経緯もあった。

留学してから、ずっと思っていることがデザインとDesignの使い方の違いである。一言にデザインというと、日本語ではプロダクトの外観をデザインすることのように聞こえる。もちろん、技術的なことにも関わってくるのだろうが、主に「デザイン」という言葉はプロダクトの「見た目」をよくするためのものとして使われる。IDEOのTim BrownのTEDのトークを聞いても、自分のやった1つの仕事を「技術に魅力的な外装をつけた」と表現した。

一方で英語でDesignというと、確かに日本語のデザインの意味も含まれるが、機械やビジネスプラン、会議などを作り込む作業にもDesignという言葉を用いる。その証拠に、Design for the other 90 %には、日本語のデザインとはかけ離れたものも紹介されている。D-labのCharcoal pressIDEのポンプがそれらである。去年出版された「Design Revolution」という本にもさまざまなDesignされたプロダクトが紹介されている。MITのD-labにもDesignのクラスがあるが、すべてがDIYの技術であって、日本語の意味でのデザインをしているプロジェクトは何一つない。

Design Revolution: 100 Products That Empower PeopleDesign Revolution: 100 Products That Empower People
(2009/10)
Emily Pilloton

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現在、Designのもつ意味すべてではなく、日本語のデザインがもつ意味が強くなり、広がりをみせているように感じる。もちろん、デザインには世界を変える力がある。しかし、デザインだけでは世界を変えることはできないと断言したい。(慶應では「世界を変えるものづくり」というクラスが始まるらしい。)

今日から「世界を変えるデザイン展」が始まるらしい。このような活動が増えるのはもちろん嬉しい。しかし表面的な展示会で終わるのではなく、ぜひともプロダクトの開発の背景にあるストーリーや開発プロセスにも注目してほしい。

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